宇多田ヒカル
印象的なのは『開いたばかりの花が散るのを』の一節。
冒頭部と最終部のそれぞれ一行目で同じフレーズだが、続きが違う。
『今年も早いねと残念そうに見ていたあなたはとてもきれいだった』と
『見ていた木立の遣る瀬無き哉』である。
最初に花が散るのを見ていたのは"あなた"だが、
最後に花が散るのを見ていたのは木立である。
ここの描写の見事さは語るまでもないだろう。
"木立"とは、元々"あなた"の背後に広がる光景、背景であった。
花が散る場所なのだから当然だが、そういう風景を聴き手が想像しているだろう事を見越して、この、最終部での「"あなた"の不在」を「木立」の一言で表現しきった。